名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
「美味しいいい」

「うま」


二人同時に呟いてしまって、重なった音に一瞬びっくりしてから、はっとして口を閉じる。


……不意に被るのって、なんでこんなに心臓に悪いんだろう。


意味もなく口を開け閉めしてみるけど、微妙な沈黙がちょっぴり長引いただけだった。


「……あー、えーと」

「……えっと」


紛らわせるみたいに、二人とも視線を泳がせてみる。


そっと顔を上げた先で、ゆっくり目が合った。


「それ、何味だっけ。桃と林檎?」

「桃とプラムと林檎とレモン。ちょっと甘くて美味しいよ」


静かにまばたきをしたそうちゃんが、手を差し出した。


「一口飲みたい」

「あ、はい、どうぞ」

「ん。どうも」


グラスを滑らせるわたし。


受け取って、一瞬縁に目を向けてから飲んだそうちゃん。

のどぼとけが控えめに動いた。


「……あ、いいなこれ」

「でしょでしょ! わたしも一口飲みたい」

「ん」


両手で二つとも滑らせて交換してくれたそうちゃんのグラスを慎重に持ち上げる。


「ありがとう」

「キウイとパイナップルとレモンな」

「うん。ありがと」


一応、という感じで落とされた早口に頷く。


わたしも一旦縁を見回して、そうちゃんが口をつけたとおぼしきところを避けて飲んだ。


回し飲みと間接キスはちょっとだけ違うものなのである。
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