名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
少し幼いオレンジの横顔が、視界いっぱいに映る。


夢の終わりが近いらしい、とこれまた夢で充分なことを思った。


だんだん無言が当たり前になってきた頃。

名前を呼ぶのはおろか、世間話もしなくなって、挨拶さえも簡略化するようになってしまった頃。


文化部の人たちが部活を引退し始めた頃。


『高校、どうすんの』


ある日の帰り道で、ふいにそんなことを聞かれて。


『南』

『なんで?』

『一番近いし入れそうだから。そっちは?』


そっち、なんてお互い呼んでいた。

何も呼ばなくてもいいときは極力何も呼ばなかった。


このとき、佐藤くんでも奏汰くんでもなんでも、少しは可愛げがある呼び方をしていたら、今が変わっていただろうか。


オレンジに髪を染めながら、そうちゃんはぽつりと呟いた。


『南にする』

『なんで? もっといいとこ行けるでしょ?』

『……なんでって』


横顔を見つめたわたしと目が合って、気まずそうに視線を外す。


気まずそうに外した視線を、もう一度わたしにちらりと向けて、また外して。


表情とは裏腹に、気負わない声がする。


『だって、暗いの駄目じゃん』


主語を抜かしたそうちゃんの小さな呟きは、無性に耳に響いた。
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