名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
二回目のカフェは、やはり混雑していた。


前回と同じ席が空いていたから、何とはなしにそこを陣取る。


二人とも自然とそちらに足を向けていた。


「あ、ねえ、あの人かっこよくない?」

「え? あ、ほんとだ、すっごいイケメンじゃん!」

「うわーやばい、目の保養目の保養」


デトックスウォーターを取りに席を立つと、そんな会話が密やかに隅から聞こえてきた。


一体何事かと見遣ったら、わたしの隣を見て盛り上がる女の子が二人。


わたしの隣。つまり、そうちゃん。


二人の視線につられて思わずそうちゃんを仰ぎ見たわたしに、密やかな追撃。


「隣の人彼女かな?」

「彼女じゃない?」

「だよねそうだよね、うわーいいなぁ!」


そんな囁きが、キラキラした好奇心いっぱいに交わされている。


そうちゃんにも聞こえているかもしれないと思うと気まずくて、横を向く。


「っ……」


彼女じゃないよ。


一緒にいるだけ。幼なじみなだけ。


……彼女じゃ、ないんだけど。


友達の段階を飛ばしてカップルに見られることに、わたしたちは慣れていない。


学校でも公認みたいになってしまっているけど、違うのだ。


違うのに。


そうじゃないのに。


そうなりたいと望んでいいのかも、わたしは分からないのに。


『なんか、彼女とか言われてごめん』

『別にいいよ』


そんな会話がよみがえる。


『佐藤さん』

『佐藤くん』

『呼びたくなっただけですけど、何か』

『別に?』


そんな会話もよみがえる。


佐藤さん。

……さとーさん。

美里。みいちゃん。


大事な呼び名に、よみがえる思い出に、切なくなる。


——わたしはそうちゃんの、彼女じゃない。
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