名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
そろそろと言葉を選びながら、映画についてとか、次の約束についてとかを話す。


オレンジ色に照らされるアスファルトを並んで歩く間中ずっと、手汗を気にしていた。


わたしの家の前に着いて、そこで、そうちゃんはそろりと手を離した。


「……じゃあ、月曜日に」

「うん、また月曜日に」


また明日、じゃない別れの挨拶は、言い慣れなくて少し探り探りになった。


わたしの右手は今もまだ、さっきまで共有していた体温と同じ熱を持っている。


若干の戸惑いと、胸のうちをくすぐるような気恥ずかしさとがじわりとにじむ、淡い熱。


そうちゃんは自分の左手を見て、わたしの右手を見て、もう一度自分の左手を見て。


「……なあ」


こぼれたみたいに、小さくわたしを呼んだ。
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