名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
「佐藤さん」

「うん、何?」


佐藤さんという呼びかけにするりと返事をしたわたしを見やって、そうちゃんはきつく唇を結んだ。


な、なんだろ。

あれかな、手汗かな。


手を見てたし、もしかして手汗が気になったのかな……!?


「佐藤さんは、……おまえは、」


物言いたげな視線が下に落とされる。


それはまるで、なんでだよ、とでも言いたげな不満のにじんだ瞳で。


「佐藤くん?」


なんでそうちゃん怒って、……そうちゃん?


自分の疑問に自分で答えを見つけた。


——そうか。


そうだ。

そうちゃんだ。


そうちゃんは、佐藤くんでも、奏汰くんでもなく、そうちゃんなのだ。


……おまえは、と、もう一度静かに呼んで、そうちゃんは真っ直ぐにわたしを見た。


「佐藤さん、佐藤くんって呼び合うの、なんか変な感じしないの」


——ずっと、そうちゃんはそうちゃんだった。


佐藤くんと呼び始めたのは、むしろ、ごく最近のことだったじゃんか。


「……佐藤くんって名字で呼ばれると変な感じするから、名前でいい」
< 164 / 254 >

この作品をシェア

pagetop