名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
佐藤くんと呼ぶことに、わたしは慣れなければいけないと、思っていた。


心の中ではそうちゃんと呼んでいるくせに、慣れない呼び名に慣れようとして、……慣れなければいけないのだと思い込んで。

慣れるために何度も呼び合い。

……慣れたと思い込んだ。慣れたふりをした。


距離を詰めるために、そうしなければいけないと思ったから。


だけど。

だけど。


ようやく慣れ始めた名字は、何も特別じゃない。


本当は、慣れて満足して、この距離でおしまいにしたくなんてないのだと、言われて初めて気づいた。


「っ」


強く唇を噛む。


そうちゃんにずっと違和感があったのかは分からないけど、でも、ねえ。


そうちゃんって呼びたいよ。


……わたしはそうちゃんの特別で、ありたいよ。


無我夢中で頷く。


「……する。するよ。変な感じ、する」


震える声を押さえつけて申告すれば。


「じゃあ、名前でいい」


真剣なまなざしをわたしにひたと据えて、そうちゃんは言った。


「名前で、呼べよ」
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