名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
「あのさ」と呼び、

「佐藤くん」と呼び、

「奏汰」と呼び、

全てに「うん」と返事をさせてしまってから。


強張る舌を動かして。


「……そ、ちゃん」


四度目の呼び直しをした。


今度は、そうちゃんは即答しなかった。


「そうちゃん」

「っ」

「そうちゃんって呼んでも、いいかな」


心臓がうるさい。


全身が心臓になったみたいに、うるさく音を立てている。


「……ん」


わたしも名前でいい、と言いたい。


佐藤さんってわたしを呼ぶの、自分の名字を呼んでるみたいじゃない? わたしも変な感じするし……とか何とか言って、説得したい。


実際、違和感はあるだろう。

何度呼んでも慣れきらない違和感が。


それに。


それに。


そうちゃんに名字で呼ばれたままなのは、こちらがどんなに頑張っても埋まらない溝があるみたいに思えて嫌だった。寂しかった。


わたしも名前がいい、と言う前に。


「あのさ」


わたしより先に、そうちゃんが口を開いた。
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