名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
ざわめく教室とは正反対に、ひたり、沈黙が落ちた。


「…………」

「…………」


言い募ったわたしに、そうちゃんは口を開け閉めして。


押しつけられたルーズリーフの束に視線を落とした後、何かに思い至ったらしい。


ぐ、と喉を鳴らし、ルーズリーフを握る手に力を込めて、ぶわり、顔を一面赤らめた。


「…………美里」


嗄れた低い声が降る。


怒っているような、困っているような、照れているような、なんだか微妙な表情で、わたしをむすりと見やるそうちゃん。


——なんだよ、それ。


無声音で薄い唇が動いた。


「…………なんですかそうちゃん」

「美里のばーか」

「……ば、馬鹿じゃないし」

「馬鹿じゃん、大馬鹿じゃん」


馬鹿。美里の馬鹿。


馬鹿と美里を何度も繰り返してから、不満げに、ふい、と視線が外される。


「……これ、明日返すから。ありがと」

「うん。明日、ね」

「……ん、明日」

「…………ん」


う、わあうわあ、恥ずかしい。妙に恥ずかしい……!


頷いたはいいものの、わたしも顔が熱い。


これ絶対赤いよね。


……あああくそう、照れる。
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