名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
……まあ、別に、わたしが持っていなくたって、そんなに問題ではない。


授業が受けられなくなったり、隣の席の人に見せてもらわなければいけなくなったりしない。


文系クラスの二組と三組の人にはあんまり借りられる人はいないかもしれないけど、理系クラスの五組と六組の人なら、大抵みんなが物理の教科書も資料集も持ってるし。


わたしたちとは授業時間もずれるから、誰からも借りられないことはないでしょ。


大丈夫だろう、と教室に戻ろうとしたわたしを、そうちゃんが引きとめた。


「……美里のがい」

「持ってないってば」


何を言っているんだ、この幼なじみは。


わたしは生物と地学なんだってば。


「五組とか六組とかの人から借りてよ」


全くもう、と首を横に振ったわたしに、全く、とそうちゃんも首を横に振って言った。


「幼なじみがいがないな」


…………。


「知るかあ!」


思わず叫んでしまったのも、仕方がないというものである。
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