名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
「美里が作ったやつないの?」

「あるけど、どうしたの?」

「食べたい。どれ?」

「卵焼き」


言った途端、ひょいと卵焼きがさらわれる。


「ってうわ駄目待って!」


駄目、と言ったのが悪かったのだろうか。


むしろ勢いよく口に放り込んだそうちゃんは、制止も聞かずに急いで噛んで、黙り込み。


「…………あっまい」


ものすごいしかめ面をした。


「だから待ってって言ったのに。そうちゃん、甘い卵焼きは好きじゃないでしょ」


こくこく頷きながらお水をあおり、甘い甘いと呟いている。


砂糖をたっぷり入れてあまーくしたので、甘い卵焼きが好きじゃないそうちゃんにはひどく暴力的な甘さになっているに違いない。


「わたしは甘いの好きだし。そうちゃんは駄目だって知ってるから、カツと交換するの唐揚げにしたのに」


とめたのに食べられたら、とめた意味がないじゃんか。


文句を言いつつトマトを頬張ると、ん? と首を傾げられた。


「や、わたしが作ったものでそうちゃんが食べられるものあったら、当然そっちあげるでしょ。お母さんのじゃなくて」

「……そう?」


なんでそんなに意外そうなんだ。


「わたし的にはそうする。わたしだって料理できるし。お母さんの唐揚げ美味しいし」

「っ、けほっ」


言い募ったわたしに、お水をあおっていたそうちゃんは、若干むせながら変な顔をした。


その耳が一刷け赤い。


え、なに。


「…………そうですか」

「そうですよ」

「……ふーん」


だから、なに……!
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