名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
声を上げる間も与えられずに、びしり、不機嫌に宣言される。


「心配だから手つないどく」

「はい、すみません」

「俺から離れないこと。異論は認めない」

「ほんとすみません!」


なんで美里はそう残念なの、と怒りつつ固くつながれた手は、わたしの可動域を狭めるためだろう、きつくそうちゃんに引きつけられていて、ときどき肩が触れる。

顔が近い。


見上げたら、思いの外かなり至近距離にそうちゃんがいて、場違いに跳ねる心臓を必死でなだめるはめになった。


「っ」


ばかばかわたしの心臓のばか、お願いだから落ち着いて……!


内心慌てるわたしをよそに、そうちゃんは堅実に歩いている。


つまづきそうな段差は避け、ぶつからないようにできる限り道の真ん中を歩き、信号はしっかり左右を確認してから渡った。


でも、その度にわたしの手を引くから、毎回のように肩が触れる。


心臓が跳ねる。


つないだ手から、速くてうるさいわたしの心音が、脈拍を通して伝わってないといいんだけどな。


「美里」


手汗を気にして少し緩め、指先を離そうとしたわたしを遮って、そうちゃんが呼んだ。


浮いた隙間は、浮いたぶんだけ素早くつなぎ直される。


掴まれた勢いがあんまり速くて、焦った。
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