名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
べすん、とわたしの頭の上に大きな手がのった。


当然のごとく、それは隣を歩くそうちゃんの仕業だ。


「え、何?」

「んー、手置いてる」


よく分からない返しに聞き直すと、ちょうどいい高さだから、とかまたもよく分からない返事がきた。


わたしは手を置くのに使われているらしい。


もっと言うならば、たとえばそう、手置きスタンド、肘置きスタンドのような。


「……挑発?」


つまりそれはあれか、わたしに対する宣戦布告か。


むすりと睨みつけると、そうちゃんが頑として否定。


「違う。なんとなく」

「なんとなく置いたならせめて、置いて終わりじゃなくて、頭ぽんぽんとか髪くしゃとか女の子扱いしようよ、そこはさ」


なんとなくってなんだ、と思いつつ提言したら、え、と固まったそうちゃんが少し考えて、首をひねった。


違和感を感じたらしい。


「女の子……」

「ねえやっぱり挑発だよね、喧嘩売られてるよねそれ。買うよ? わたし買うよ?」


怒りをこらえて笑いかけたわたしを、誰か褒めて欲しい。


「違くて」


そうちゃんは慌てて否定した。


「美里は女の子っていうか……いや女子なんだけど、なんかあれだよ。幼なじみ……? んー……あれだ。美里は美里って認識してたというか」

「っ」


そうちゃんはこういうところが本当ずるい。


さらりと言うくせに、おそらく掛け値なしの本音で、無意識下の甘さがわたしの怒りを霧散させる。
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