名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
手ぐしで懸命に直して、なんとか元通りにした。


「……何が違うの?」

「大違いだよちょっと頭貸して」


頭を低くしたそうちゃんの髪の上で、「こうだよ!」と力説しつつ、大げさなくらい軽く、優しく、手をぽんぽんする。


そうちゃんの基準になるのなら、少しくらい大げさな方がいい。


多分また力加減が分からなくて、初めはきっと、思ったより強めになるだろうから。


女の子は優しく丁寧に扱って欲しい。


ついでにわたしも、優しく丁寧に扱って欲しい。

美里としても、幼なじみとしても、女子としても。


……できれば、佐藤美里として、丁寧に扱って欲しいなあなんて。


さらさらな髪を揺らして、なるほど、と頷くそうちゃん。


「分かった? 優しくね、優しく。髪型は崩しちゃ駄目」

「ん。優しくやって髪は崩さない」


復唱しながら練習しているらしき手は、まだ結構強そうなんだけど、まあいいよね。


と思っていたら、わたしに向き直ったそうちゃんが、「もっかいやる」と宣言した。


「え、やらなくていいよ……」


真剣な顔で手を上下してみせられたけど、それはまだ、ぐしゃぐしゃしてべちんべちんしてると思うよ。


わたしにもっかい被害に遭えっていうの。嫌だよ。


「もっかいやる」

「ええー?」

「やる」


やる、じゃない。嫌だ。


嫌なんだけれども、なんだか固い決意を固めてしまったそうちゃんが、むすりと不機嫌に手を伸ばしてくる。


「……じゃあうん、どうぞ」


仕方なく、頭を近づけた。
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