名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
理由をこじつけて、無理矢理ほてりを紛らわすわたしに、そうちゃんが追い打ち。


「あ、美里、よければで、いいんだけど」

「うん、何?」

「明日も練習していい?」


……だから。


よければ、とか。練習、とか。


そうちゃんはそういうところが本当に。本当に。


さらに上がり始めた体温を頭の隅に追いやって、必死で軽い口調を保つ。


「なに、口実?」


それでもそうちゃんの方は向けなくて、前を見たまま笑みを浮かべれば。


「……口実ですけど、なにか」


ほんの少し嗄れた声が落ちた。


「ほらあれだよ、練習しておかないと困るだろ」

「いや、別に困らないと思うよ」


あんまり強引な付け足しに笑って、思わず突っ込んでしまった。


「俺が困るの」

「はいはい」

「困るの」

「分かったって」

「……なら、いいけど」


練習しなければ、という使命感に燃えているのは伝わった。


それが、誰の、そうちゃんとどんな関係にある人のためなのかは、分からないけど。

うぬぼれかもしれない。うぬぼれだって分かってる。


でも、ねえ。


……わたしのためだったらいいな。


そうちゃんが練習するのは、わたしのためだって思ってしまっても、いいかな。
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