名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
そうちゃんの髪ぐしゃぐしゃ事件のために、ときどき道端に立ち止まったせいだろうか。


赤くなったり騒いだりしつつ、家に着いたときはすでにもう、ずいぶんと暗かった。


「じゃあ、また明日ね」

「ん。また明日」


いつも通りの挨拶をして階段に足をかけたところで、一つ思いつき。


もう暗いし遅い時間帯だから言ってしまってもいいだろうと、振り返る。


「そうちゃん」

「何?」


思いついて。

言おうとして。

笑われないかな、なんて心配になって、やっぱりうつむいて。


こんなことを思うあたり、わたしは今、あんまりにも浮かれすぎているんだろう。


浮かれすぎている。緊張している。


でも、これを言える機会はきっと、それほどない。


言わなかったら後悔する。


きっと、言っても言わなくてもわたしは不安になるのだろうけど、言ってする後悔より、言わないでする後悔の方が、大きいと思うから。


心を決めて顔を上げる。


「まだ夜ご飯食べてないけど一応! おやすみ!」


早口で言い放つと、そうちゃんが固まった。


呆然としている理由は驚きか。あるいは戸惑いか。


……やっぱり、まだ早かったかな。おかしかったかな。


言わない方が、よかったのかもしれない。


こみ上げる後悔には気づかないふりをして、急いで背を向ける。


「じゃ、じゃあ、また明日……!」


そんなことを言って、さっさと階段を上がろうとしたわたしの手を、そうちゃんが掴んだ。


——美里。


「言い逃げ反対」
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