名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
そうちゃんは自分からよく話す方ではなかった。

ただ、話しかければたくさん話してくれたし、にこにこしながらわたしの話を聞いてくれた。


いつも手をつないで、いつも隣にいて、いつも一緒に遊んだ。


いつも。いつも。


おばさんに切り揃えられた髪。

握る手の高い体温。

高く澄んだ声。

三日月の口。


わたしはそんな幼なじみに恋をした。


そうちゃんに、恋をした。


『みいちゃん』


それは、ただの気まぐれだったのかもしれない。


女の子を「〇〇ちゃん」と呼ぶおばさんの真似をしただけだったのかもしれない。


それでも確かに、初めてそうちゃんに名前を呼ばれたときに、心が弾んだのだ。


幼なじみの男の子がわたしを「みいちゃん」と呼んだから、わたしは幼なじみの男の子を「そうちゃん」と呼んだ。


そうしてお互いをそうちゃん、みいちゃんと定義づけたわたしたちは、顔を見合わせて、手をつなぎ、笑い合って、そうちゃんとみいちゃんになったのだ。


この気持ちははっきりと恋だった。


友情じゃない。

憧れじゃない。


きゅうう、と甘く甘く心の底でくすぶった感情を、もし恋と言わないのなら、なんて言うのか分からないほど。


……ねえ、そうちゃん。


初恋の続きをしようよ。
< 238 / 254 >

この作品をシェア

pagetop