名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
予想外の質問に詰まる。


美里、と呼ばれるのが嬉しくないわけじゃない。


おい、とか、ねえ、とか、名前を呼ばれないよりは、佐藤さんでも美里でも、名前を呼ばれたらもちろん嬉しいよ。


でも、美里とみいちゃんならどちらが嬉しいか、どちらで呼ばれたいか、と聞かれたら、みいちゃんと呼ばれたい。


——「みいちゃん」はわたしたちにとって、「そうちゃん」と同じ、特別な呼び名だから。


「そ、それは嬉しいよ。嬉しいけど……」

「けど、何」

「何となく『みいちゃん』に戻るのは、嫌だよ」


みいちゃんって呼ばれたいと思っているのは変わらないけど、無理に呼ばなくていい。


そうちゃんが呼びたくないなら、美里でいい。


「……ん。分かってる」


そうちゃんは小さく顎を落として頷いて、ゆっくり言った。


見上げた横顔は前を見つめている。


うん、とわたしも強く頷いて、小さく相槌を打った。


……あれ。待って。


何となくみいちゃんに戻るのは嫌だよ、に、分かってるって返事が来たということは、何というかその、すごい意味なんじゃないかな。


もしかして、もしかすると、何となくじゃなく、何かきちんとした理由づけを持って、みいちゃんに戻れるんじゃないかな……!?


そんな気がして、思いつきに慌てる。


確認したくて、息急き切って聞いてみた。


「というか、なんでそんなこと聞くの」


わたしにしては頑張った問いかけに、そうちゃんはやっぱり前を向いたまま、硬い声で言った。


「……別に、なんでもない」


なんでもないことはないだろう。


そんなことは、聞かなくても分かっている。

わたしが分かっていることは、そうちゃんもきっと分かっている。


でも、それ以上を言い出せないままお互いに黙り込んでしまって、結局そうちゃんは答えてくれなかった。
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