名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
そろそろ家が近い。


細い路地を曲がって、お互いの家が見えた頃。


人通りの少ないオレンジ色の中で、そうちゃんがわたしを呼んだ。


「あのさ」

「うん」

「佐藤美里さん」

「うん……?」


そうちゃん、急に改まってどうしたんだろう。


内心首を傾げつつ向き合ったわたしに、もう一度。


「佐藤さん」


真剣なまなざしに、はっとする。


……これは、あれだ。


そうちゃんと呼んだときの。わたしたちが、そうちゃんと美里になったときの。


『名前で、呼べよ』


嗄れた声が脳裏でよみがえった。


「う、ん」

「美里」

「……うん」


返事を絞り出す。


はく、と一拍置いて、そうちゃんは練習するみたいに口を動かし。


「…………みい」


もどかしくわたしを呼んだ。


「っ」


手が熱い。

耳が真っ赤だ。


体温が上がる。


横を向いてしまって顔が見えないけど、そうちゃんの目は、わたしとおんなじように泳いでいるのだろうと思った。


「みい」


あのさ。


「みいちゃんじゃ、なくて。……みいとか、どーですか」
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