名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
三日月の口で発音された、みー、と伸びる音に似た呼び名は、柔らかく甘く響いた。


じわり、胸にしみる。


みい。美里じゃなくて、みいちゃんでもなくて、みい。


初めて呼ばれたのに、すとんと腑に落ちる感覚があった。


わたしが思い描いていたより、望んだ通りにみいちゃんと呼ばれるより、なぜだか自然だった。


きっと、そうちゃんが呼んでくれたからだ。


わたしがお願いしてじゃなく、そうちゃんが自分から呼んでくれたから。


そうちゃんに起因するものは、わたしにとって簡単にしっくりくると決まっている。


みい。


二文字を舌の上で転がしてみると、やっぱり素敵に響いた。


うん。

……うん。いい。素敵だ。とっても素敵だ。


そうちゃんにこれからそう呼んでもらえるのを想像してみたら、あんまり幸せで嬉しくなった。


「いいと思います! すごく!!」


力強く頷くと、そうちゃんは照れをにじませて唇を歪め。


「うるさいんだけど。……みいのばーか」


横を向いたまま、そんなことを言うから。


へらり、相好を崩したわたしに、そうちゃんは不機嫌を装ってさらに眉を寄せた。


「そうちゃん」


気にしないで笑いかける。
< 243 / 254 >

この作品をシェア

pagetop