名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
「……何」


返事をくれたから、本当に不機嫌なわけじゃないんだろう。


そうちゃんは元来、本当に本当に我慢できないほど不機嫌でないと顔に出さないタチだし、不機嫌だと無表情になるし、何も答えなくなるから。


不機嫌さが顔に出ていても答えてくれるなら、本当は不機嫌じゃないと教えてくれているようなものだ。


「みいって呼んで」


わたしのお願いに、そうちゃんはものすごい顔をした。


怒っているようで、照れているようで、焦っているような、目を見開いた顔。


渋面とはこういう顔を指すのだろう。


実に嫌そうな表情で黙り込み、口をへの字にして、言いよどみ。


小さく深呼吸をしたそうちゃんは、低く低く、呟いた。


「…………みい」


嗄れた声は、かすれてほとんど聞こえなかった。


明らかに絞り出しているのは分かるんだけど、それじゃあんまり寂しいから、リベンジする。


「もっかい」

「みい」

「もっかい」

「……みい」

「もっか」

「やだ」


もっかい、に被せられた拒否に、わたしのお願いはすばやく遮られた。


「ひどい! もっかい!」

「やだ」


そんなに拒否しなくても。


……別に、呼んでくれたっていいじゃないか。
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