名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
「あー……えっと」

「うん、どうしたの?」


口ごもったそうちゃんが、困ったようにがしがし頭をかく。


「今日、一人で帰ってくれない?」

「っ」


きゅ、と何かがしぼむ音がした。ひどい顔をしている自覚があった。


……一人で帰ってって、なんで。

面倒臭い幼なじみに嫌気が差した?


手のひらを強く握り込む。


短く切り揃えているのに爪が食い込んで痛い。胸はもっと痛い。息苦しい。


……そう、だよね。


だって迷惑だ。


たとえば友達と帰るとか、どこか遊びに出かけるとか、そうちゃんは学校帰りに何かをあまりしないようにしてくれている。


暗がりを怖がる幼なじみのために、放課後の予定をあけてくれるようになって久しい。


わたしはいい。

わがままを聞いてもらっているから、不満なんてない。


ましてや好きな人だ。不満があるはずがない。


でもそうちゃんは、別にわたしのことが好きなわけでもなんでもなくて、幼なじみだからってわがままに付き合わされて、放課後を潰されて。


そうちゃんは遊びに誘われないわけじゃない。


そうちゃんは放課後出かけたくないわけじゃない。


その優しさに、子どもなわたしが甘えてしまっているだけなのだ。
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