名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
「一人で帰れるよな?」


……無理。

無理だと思う。正直に言えば。


途中まで友達と帰るにしても、その先は怖くて足がすくむに決まっている。


すくむに決まっているけど、そうちゃんが求めているのは帰れるって返事に決まっているから、強張る首を強引に縦に動かした。


正解を選ぶのは、ただの見栄。


見栄を張りたいのは、強がりたいから。


強がりたいのは、そうちゃんが好きだから。


だ、大丈夫。走って帰ればいける、大丈夫。


今日って言ったし。明日は一緒に帰ってくれると思うし。


甘えているとも思うけど、一旦そう考えでもしないと、自分がどんなみっともないことを口走るか分からない。


矛盾した感情も混乱も一度置いておくことにして、心の中で必死に唱える。


大丈夫だから、落ち着いて。

落ち着いて、わたし。


「う、ん。大丈夫」


頷いて見せたものの、明らかに動揺しているのが丸わかりの返事になってしまって、ぎこちないわたしを訝しげに見たそうちゃんは、ああ、と何かを導き出した。


「今日、午前授業だから終わるのは昼くらい。ちゃんと明るいよ」


だから、一人で帰れるだろ?
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