名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
「……うん」


穴があったら入りたい。むしろわたしが穴になりたい。

無機物になって、この羞恥心を掻き立てる一連の諸々を忘れてしまいたい。


勝手に勘違いして動揺した挙げ句、なんで動揺したのか全部分かったうえで冷静に訂正されるって、ものすごく恥ずかしい……!


ふしゅうう、と赤い顔で小さくなったわたしを気にとめないようにしてくれているそうちゃんに、ありがたいけどさらに恥ずかしさが倍増する。


「一緒に帰ろうと思ってたんだけど、ちょっと用事ができて。なんか長引きそうだし、いつ終わるかも分からないから、今日は早いんだし先帰った方がいいかと思って」

「……そっか」

「ん」


ひそかに深呼吸をして、ちゃんと笑って、しっかり返事をした。


「分かった。大丈夫。ありがとう」

「ん」


じゃ、と短く言い置いて去っていった後ろ姿を見送って、壁に倒れるようにもたれる。


冷たさが背中越しに伝わってきて、暑い体が少し落ち着いた。


ちゃんと笑えたかな。少しは大丈夫そうに見えているといい。


……一緒に帰ろうと思ってたんだけど、って言ってくれた。

面倒くさいからとは言わないでくれた。


…………駄目だなあ、と湿った吐息で考える。


そうちゃんを縛ってしまっているのに嬉しく思ったわたしは、醜いのだろう。


わたしがそうちゃんの一緒に帰る人になれるのは、暗いときだけだ。


明るいときも一緒に帰りたいと思ってしまったわたしは、醜いのだろう。


……ああ。


わたし、だめだなあ。
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