名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
「っ」


……ち、違う違う違う。


勝手に甘い意味に置き換えそうになるのを抑える。でも、勝手にときめいて息をのんだのは、きっと丸分かりだった。


違う違う、そういう意味じゃない。しっかりして。落ち着いて。


わたし、やっぱり迷惑かけてるんだよ。

それはそうだよね。


彼女できないよ、なんて言いながら、彼女ができないで欲しいと思っている。


好きじゃないふりをしながら、わたしを見て欲しいと思っている。そうちゃんの放課後を奪っている。


「一緒に帰る人」でいたいだなんて、一番邪魔をしているのはわたしだ。甘えているのはわたしだ。


タチが悪いことに、そうちゃんが彼女を作る余地すら残していないのだ。


……もしかして。もしかしなくても。わたしはそろそろ、そうちゃんのそばを離れた方がいいんじゃないのかな。


「で、一緒に帰るんだろ」


そうちゃんの言葉がうまく耳に入らない。


何か話しかけてくれているらしいのに、するりと耳を滑っていく。


するり、するり。


ぎゅっと両手で制服の裾を握った。


不安がぐるぐる渦巻く。


ずっと一緒にいられるわけじゃないのに、ずっと一緒にいたがって。ずっと一緒にいてもらってて。


わたし、そうちゃんに迷惑だって思われてるんじゃないのかな。


邪魔な幼なじみって、ずっとずっと思われてきたんじゃないのかな。


……疎遠になったのは、からかいに疲れたからじゃなくて。


わたしに、疲れたからだったとしたら?
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