名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
思いつきに一気に肝が冷えた。ひゅっと短く息を飲む。


……邪魔な幼なじみって思われているんじゃないかって不安。


それはとても、悲しいことにとてもとても──ありえそうな予測に思えた。


「急いで準備してくるから、ちょっと待ってて欲しいんだけど」

「……い、いいよ」


顔は見ないで、視線をそうちゃんの肩越しの壁にそらす。


笑え。

笑え。


心配されないように。大丈夫に見えるように。


作り笑いをなんとか試みる。


もう一度「いいよ」と言った声は、ひどくかすれて嗄れて、不恰好になった。


……一緒に帰って、なんて甘えてちゃ、駄目だ。


いつまでも子どもみたいに、優しさに甘えてちゃ駄目だ。


ひとりになれないと。

一人で帰る放課後に慣れないと。


だってわたしたちは、幼なじみだけど、それ以外に何のつながりもない他人で。


……他人、で。


自分で未練を断ち切るために考えたことで、当然の事実を認識し直しただけなのに、思わず泣きそうになった。


自分で自分に傷つくのは、思いがけないほどつらかった。


「ん?」

「あの」


聞き返すそうちゃんに笑ってみせる。


「いいよ。わたし、一人で帰るよ」


声が震えなかったのをこれ幸いと、すばやく背を向けたら。


「…………は?」


ものすごく低い怖い声が、した。
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