名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
「っ」


そうちゃんのこんなに低くて怖い声を初めて聞いた。


怒りか呆れか、はたまた全く別のものか、沸き上がるいろいろを無理矢理抑えて平淡にしたような。

ぎりりと強く手のひらを握り込んだのが分かるような。


何かに震えた吐息が、低く低く、自制心をもって静かな廊下に響いた。


そうちゃんが小さく深呼吸をする。


「…………ちょっと、待て」


冷や汗が止まらない。


どうしよう。そうちゃんがものすごく怖い。


ものすごく怒っていらっしゃる。


どうしようもなくて立ちすくむわたしに、抑えた声が降る。


「こっち向いて」


言い方も抑えてまろやかにしてくれたけど、やっぱりちょっと怖い。


「えええ、えと」

「向いて」

「はいぃ……!」


勢いよく振り向いて、散々ためらってからおそるおそる顔を上げたわたしは、鋭い眼光にぎりりと突き刺された。


こ、怖い。


「今なんて言った?」

「ひ、一人で帰ると言いました……」


敬語になる。尻すぼみになる。


へえ、とこぼしたそうちゃんの目が、どんどん鋭くなっていく。


「こんな暗いのに?」
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