名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
「怖いです!」

「じゃあ駄目」


駄目ってなんだろ、あれか、一人で帰るのがか。


「……やっぱり怖くない気がしないでもないです!」


そういえば、一人で帰るって言ったんだった。


最早錯乱しすぎて当初の心積もりも忘れての、言い直しに。


「…………」


ジト目とともに返ってきた無言が痛い。


視線が泳ぐ。


「駄目」

「……ええーっと」

「俺が心配だから、駄目」


……ええと。


多分甘い意味じゃなくて、もしわたしが一人で帰って、やっぱり怖くて泣いたりなんかしたら困るってことだろう。


そんなふうになったことはないから、分からないけど、多分。おそらく。


……勘違いしちゃ駄目だ。


必死に言い聞かせていましめるわたしの腕を無言で掴んだそうちゃんが、すたすたと教室に入った。


「な、何」

「待っててって言っても帰りそうだから」


つまり捕縛。うう、反論できない。


でもね、あのね、そうちゃん。


席まで引っ張って行かれてむしろわたしは涙目だよ……!


見ないふりをし続けてくれている周囲の心遣いが、痛かった。
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