名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
「奏汰帰んの?」

「おう」

「彼女さん?」

「幼なじみです!」


思わず食い気味に否定したら、爆笑された。


「手つないでるくせにー」


だからっ、これはそうちゃんの普通なんだってばっ!


必死で抜け出そうと引っ張っているのに、全然抜けない。

逃げないようにだろう、失敗する度にむしろそうちゃんの腰に手を引きつけられてしまって、手を引く力は痛くない最大限から変わらないけど、どんどん抜け出しにくくなる。

うう、近い近い近い……!


くそう、と無謀な格闘を試みていると、片手ではうまく掴めなかったらしくて、そうちゃんが鞄を派手にがっしゃんと落としたものだから、思わず苦笑した。


全部片手で準備しようとするのは、結構無謀じゃないかなあ。


ああもう、とか思いながら手伝ってしまった。


あれ。……なにしてるんだろう、わたし。


「ねえ」

「駄目」

「ええと」

「駄目」

「一人で」

「駄目」


──だから。


「俺が心配だって、言ってるじゃん」


切れ長の目がわたしを覗き込む。


「分かれよ、馬鹿」


押し問答をしているうちに詰め終わった鞄を持ったそうちゃんは、じゃ、と周りに軽やかに挨拶をして、あれよあれよという間に帰路についてしまった。
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