名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
「…………」

「…………」


沈黙が痛い。


「あの」

「何」

「なんで手を掴んだままなのかなーと……」

「離したら一人で帰りそうだから」

「そんなことないよ」


というか、明るいうちはともかく、こんな真っ暗闇の中一人で帰るなんてできない。


街灯はあるけど、暗いところは暗いから、怖くて無理だ。


だから、一緒に帰ってくれていることに不満はないんだけど。ありがたいんだけど。


「駄目」


何度も聞いた二文字に、何度も聞いた抑えた声に、唇を噛む。


急に一人で帰るって言い出すなんて、今までを鑑みたら勝手でわがままなやつだってきっと思っただろうに、そんなことは言わないでくれたそうちゃんに、切なくなる。


そうちゃんはきっと勘違いしてる。だからきっと怒ってる。


違うんだよ。あのね、そうちゃん。


一人で帰ろうとしたのは、焦って突っ走っただけなんだよ。


真っ暗でも帰りたい、帰れるなんて言われたら、今まで暗いの怖いって言うから一緒に帰ってくれてたのに、それは何言ってるんだってなるよね。


ごめん。ずっと嘘をついてたみたいに見えたなら、ごめん。


違うんだよ。怖いのも、一緒に帰りたいなんて子どもじみた甘えも相変わらずで。


わたしは確かに一緒に帰れて喜んでしまっている。

はた迷惑だろうなと思う。


でも、だけど、一緒に帰りたくて暗がりが怖いふりをしてたんじゃないよ。


嘘吐いてだましてたんじゃ、ないんだよ。
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