名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
「あの」

「何」


不機嫌な声に、あいている右手を握る。


ねえ、そうちゃん。言い訳をさせてよ。


息を大きく吸って、一息で言い切る。


「一人で帰るとか馬鹿なこと言って、迷惑かけてごめん」

「…………」

「暗いの怖いので、……えっと、その」


尻すぼみになって消えかけるのを叱咤して、もう一度大きく息を吸って。


「また一緒に帰ってくれたら嬉しいです!」


勝手に言い切って、荒い呼吸でうつむいた。


……あれだ。その、あれだ。


嫌だって断られたらおなか痛くなろう。腹痛ときどき微熱で明るいうちに早退しよう。

それがいいんじゃないかな、うん。


必死なわたしの手を、そうちゃんがそっと握り直した。


「……明日は」

「っ」


ぱっと勢いよく横を振り向く。


そうちゃんは前を見つめている。


「明日は、教室にいなよ」

「うん……!」


ぎゅっと握り返したわたしの熱い手のひらを、そうちゃんはもう一度握った。
< 49 / 254 >

この作品をシェア

pagetop