名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
わななく唇をきつく引き結ぶ。


そっと、大事に、大切に、余韻を噛み締める。


……一人で帰るとか、言うなよ。


そうちゃんの声が、甘やかな響きをもって、何度も耳の奥でこだまする。


逃さないように強く目を閉じた。


忘れないように一心に転がした。


……一人で帰るとか、言うなよ。


何度も何度も、よみがえる。鮮やかによみがえる。


そうちゃんが何を思って言ったのかは、今はいい。考えない。


一人で帰るとか、言うなよ。


今は、幸せだけを。


……好きだなあ、と思う。


習い性に似た感情は、けれど、いつも真新しく愛おしい。


好き。


こういうところが好き。


こういうところ以外も好き。


全部全部好き。大好き。


そうちゃんが好きで好きで、好きで仕方がない。


……一人で帰るとか、言わない。絶対言わない。


わたしがそう決めたのは、当然といえば当然のことだった。
< 51 / 254 >

この作品をシェア

pagetop