名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
「えっと、もしわたしが手伝えるものなら、よかったら手伝おうか?」


そうちゃんに提示された二択は選べないから、手伝うことにした。


二人でやった方が終わるのも速い。多分わたしが手伝っても邪魔にはならないはずだ。


少なくとも猫の手くらいにはなれるし、余計な仕事は増やさないだろう。


「ホチキスでとめるだけ。いいの?」

「いいよ」


一も二もなく頷く。一緒にいられて一緒に帰れるなら、なんだってお手伝いしますとも。


それに、疎遠になったのはたまたまで、それほど気まずい何かがあるわけでもない。


無言で黙々と作業することになったって平気。


「どこでやろうか。決めてた?」

「うちのクラス。……は嫌?」


付け足しはこの間のからかいを覚えていてのことだろうか。


「ううん。行こう」


からかいは気にしていない。


即座に首を振ると、そうちゃんは明らかにほっとした。


自分の教室以外に作業できる場所が見つからなかったのかもしれない。


受験勉強に忙しい三年生の先輩たちが、空き教室といい自習スペースといい、ほとんどを使っている。

ちょうどいい場所が見つからなかった可能性は高い。


それなら、なおさら嫌だなんて言わなくてよかった。


扉を開けたそうちゃんの後ろに続くと、ぱっとこちらに目を向けた数人全員から、「あ、彼女だ」みたいな視線が刺さった。


……だから、違うってば……。
< 55 / 254 >

この作品をシェア

pagetop