名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
教室の扉ががらりと開いた。


残っていたほとんどの人の視線が扉に集まって、そこに立っているのがお目当ての人物じゃないと分かると途端に外れる。


一通り見回してすぐにわたしを見つけたそうちゃんは、静かにいつもの呼びかけをした。


「行くよ」


主語は、なし。


「うん」


準備はしていたから、机の上の鞄の肩紐を握って肩にかけつつ友人に挨拶をして、急いで隣に並ぶ。


いつものことなので特にからかわれはしない。


ぱたぱたとわたしの軽い足音が鳴る。


廊下、階段、昇降口を並んで通過。


下駄箱が離れているから、中間の傘立てで待ち合わせ。


正門まで無言で歩く。


この時間に言葉がなくても別にいい。


隣にいて、ずっと前を見ていて、でもときどき振り返ってくれれば。


歩幅を合わせてくれれば。


横顔だけで、充分だ。
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