名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
「面倒くさいってひどいよな」

「そうだねえ」


不満げにぼやくそうちゃんの声が、彼らはいい友達なんだな、と思わせた。


ぽつりぽつりと愚痴を並べながらも声は明るくて、口元は緩んでいる。


そっか、と相づちを打ちながら、真っ先に頼られた彼らがうらやましかった。


そう、これは嫉妬だ。馬鹿な嫉妬だ。


わたしには頼ってくれなかった。こっちから申し入れたからそれを聞いてくれただけ。


わたしは頼みの綱じゃなくて、猫の手にしかなれない距離にいる。


苦いものを飲み込んで、努めておどけるように、軽口に本心を紛らわした。


「そういうときはわたしを頼ってくれていいのに」

「頼ってるよ」


なんで、なんて返されなかったことに安堵しながら、もう一度冗談でくるむ。


「そうじゃなくて」


気を抜いたらやめてしまいそうな舌を、明るく動かした。


「最初から頼ってくれていいのに、ってことだよ」


最初から。わたしが申し出る前から。


ちょっと手伝って、って言われたら、喜んで手伝うよ。


真っ先にそう言われるような立ち位置に、本当はいたいんだけどな、わたしは。
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