名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
隣に並んで歩き、二人とも両手がふさがっているので、行儀悪いけどふんっと扉を足で開けて、電気をつける。


「置いて」

「はーい」


わたしの抱える山から一クラスぶんをおろしたところで、気づいた。


そうちゃんは先にわたしの持つぶんをなくそうとしてくれているらしい。


重いだろうし、とか考えてるに違いない。


くっそう、こういう優しいところが好きなんだ馬鹿あ!


できるだけ無表情になるように努めながら、そうちゃんを横目で盗み見る。


オレンジ色じゃないけど、やっぱり大好きな横顔。


「何、佐藤さん」


そうちゃんに気づかれたらしい。


「俺の顔になんかついてる?」


どうしようどうしよう、と焦るわたしを、意地の悪い笑みがお出迎え。


焦っているのをからかって楽しむ心積もりらしい。


顔になにかついているか、なんて、何もついていない確信があるときにしか大抵言わない。

からかいの常套句だ。


「目と口と鼻」


可愛くない返答をすると、髪と眉毛と耳も入れてやってよ、と返ってきた。


「やだ」

「なんで」


軽口を叩きながら、次の教室でも同じ手順を繰り返す。


「そこに置いて」

「……うん」


やっぱりわたしの手が先に空っぽになってしまった。


せめてもと電気を消して隣に並び、扉の開閉をして、手を差し出す。

明かりをつけたスマホを持ってただ隣にいるよりはマシだろう。


「持つよ」

「いい。電気つけてくれる?」

「……うん」


電気をつけるのはわたしのためだ。


見えなくはないから、そうちゃん一人なら、そのままの暗さでもぱぱっと置けるはずだ。


悔しいのか不満なのか何なのか、いろいろが混じった感情がこみ上げる。


ぐるりと渦を巻く負の感情は、でもやっぱり一つだけ挙げるなら、悔しさなのだろうと思った。
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