名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
ようやく資料を全クラスに配布し終わった。その旨を報告するために先生を探す。


薄暗い階段の蛍光灯が、人の気配に反応してジジジと青白く明るくなった。


電気はついたものの、照らす範囲はそれほど広くない。


やっぱり周りは暗いから、階段の端は暗闇に紛れたままだ。


階段は人の気配で明かりがつく蛍光灯なのに、廊下は違うのってちょっとひどいと思う。

やっぱりこの学校の設計者は優しくない。


「よし。行こう」

「……うん」


う、と少し怯んで心持ち真ん中に寄るわたしに笑って、歩き出したそうちゃんは右側の手すりに手を滑らせている。


隣に並ぶと、わたしがちょうど、一番光が当たる真ん中にくる位置に立ってくれた。


何も言わないけど、きっとそうちゃんの優しさだ。


「佐藤さん」


一歩、二歩、とゆっくり足を運んでいると、そうちゃんが静かにわたしを呼んだ。


「うん?」


そうっと返事をする。


そうちゃんは前を見たまま、やっぱり静かに言った。


「ありがとう」

「どういたしまして。……というか、あの、こっちこそありがとう」


逆に迷惑をかけてしまったんじゃないかってくらい、そうちゃんにいろいろ気を遣ってもらってしまった。


ほんと、どうにかしなきゃなあ、これ。
< 74 / 254 >

この作品をシェア

pagetop