名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
暗がりが怖いことに、何も関連事はない。


ただわたしが怖がりなだけ。

ただわたしが、暗がりにいまだ慣れないだけだ。


「ん? ん……?」


お礼を言ったら、なんだか首を傾げられた。


そうちゃんにとって、お礼を言われるような行動ではないのだろうということは、分かっている。


でも、わたしがお礼を言いたかったんだからいいのだ。いいったらいいのだ。


「んー……まあ、うん」


若干疑問を残しつつ頷いたそうちゃんは、もの言いたげな視線をこちらに寄越した。


「何?」


見つめ返したわたしに、困ったような微笑みが向けられる。


「佐藤さんはいい人だねえ」


何を言っているんだ。


「いい幼なじみと言って」

「あ、気にするのそこなんだ」

「うん」


いい人、という評価は、ありがたーく受け取っておく所存である。


かたり、かたり、と半拍ずれるそうちゃんの足音を消してしまわないように、なるべく静かに歩いた。


「佐藤さん」

「ん?」

「髪食べてる」


ふいに伸びてきたそうちゃんの左手が、唇をかすめる。


「……ありがとう」

「ん」


……触れられたところが、一帯熱い。


ああもう。


…………くそう。
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