名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
「じゃ」


わたしの家の前で、そうちゃんが短く言う。


「うん、じゃあね。ありがとう」

「ん」


わたしが扉を閉めてからお隣の扉が開く音が聞こえるのも、変わらない。


靴を揃えるわたしの鼻を、濃い夕飯の匂いがくすぐった。


今日はカレーらしい。


お母さんとおばさんでなんとなくカレーが食べたくなったんだろうから、じゃあきっと、そうちゃんもカレーだ。


お母さんのカレーは鶏肉で、おばさんのカレーは豚肉で作る。


うちはじゃがいもを入れないけど、おばさんはじゃがいもを入れる。

じゃがいもが溶け始めてとろみがついたカレーが、おばさんのカレーだ。


それで、明日の朝も二人とも余りもののカレーなんだろう、というか十中八九そうなる。

お母さんもおばさんも、カレーは大抵多めに作るから。


そうちゃんは多分、飽きるのが嫌でカレーうどんにするんじゃないかな。


わたしはどうしようかな。うどんもいいけど、半熟の目玉焼きでも焼こうか。


台所で流れる水の音に負けないように、ただいまあ、と声を張り上げる。


おかえりい、と張り上げたお母さんの返事を聞いてから階段を上がって、部屋へ。


電気をつけて鞄を下ろして、そっと溜め息がもれた。
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