名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
がちゃん、がちゃん、と広い背中越しに音がする。


そうちゃんは、百円玉、十円玉と大きいものから順に、人差し指で押し込むように入れるくせがある。


急いでいなければ、一枚ずつゆっくり入れる。


聞き慣れたリズムを思いつつアスファルトを見ていると、がたん、と少々乱暴にものが落ちてきた気配がした。


あ、終わったのかな、と顔を上げたら。


「うっわああ!?」


頬に当たった熱に、可愛くない悲鳴を上げるはめになった。


「え、何、びっくりした……!」


オレンジのキャップを中指と薬指で挟んだそうちゃんが、肩を跳ねさせて固まるわたしの頬から、手首のスナップを効かせてペットボトルを遠ざけた。


その口元に薄く笑みが浮かんでいる。


「そんなにびっくりしなくても」

「うるさいな……!」


からかわれたらしい。


くつくつ、実に楽しげに喉を鳴らすそうちゃんにジト目を向ける。


頬に移った熱が急激に冷えていく感覚に、ふと気づいた。


あれ? なんでいつもの冷たい炭酸じゃないんだろう。


そうちゃんはあのメーカーのあの炭酸が好きなのに。

たまには温かいものが飲みたくなったんだろうか。でもだからってココアなのがよく分からない。


何気なくそんなことを考えていたら。


「いる?」


短い問いかけが降ってきて。


「え?」


夕日色のペットボトルが、目の前で揺れる。
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