名前で呼べよ。~幼なじみに恋をして~
ココア、という文字が大きく視界を占めて、見慣れた柔らかい色味をしたココアが、優しく波打つ。


ん、とペットボトルを揺らしたそうちゃんは、さらりと言った。


「あれだろ、だいぶ残っちゃうから買わなかっただけで、喉は渇いてるんだろ」

「え、うん。そうだけど……」

「で、確かこっちが好きな方」

「うん、合ってる」

「お、やった」


口の端を吊り上げたそうちゃんが、いたずらっぽく笑ってわたしを覗き込む。


「半分くらいまでなら飲んでもいいけど、飲む?」


悔しいな、と思った。


どうして分かったのかは分からない。


ただ、わたしが炭酸が駄目なことを覚えていてくれたんだなあ、って嬉しくなったり。

少し寒がってたこと、どうして気づいたんだろう、って疑問に思ったり。

いつも買うココアを、ちゃんと、よく似た隣のカフェオレと間違えずに覚えていてくれたんだな、って驚いたり。


いろんな感情が混ざって、でも決して嫌ではなくて、心が弾んでいく。


オレンジ色のキャップのペットボトルが、もう一度優しく揺れた。
< 82 / 254 >

この作品をシェア

pagetop