キズモノ
キズモノ
キズモノ
刃先が触れた。
白い肌に、赤い雫が溢れる。
腕に力を込めた。
獣のような呻き声が辺りに散って、また静寂が戻る。
抱きかかえると、力をなくした体はぐにゃりと動く。
柔らかな地面に横たえて、見下ろした。
はじめには少なかった赤はどんどん広がって、体の芯が温まるような心地になる。
自然と頬に力が入った。
口元が引き攣って、そのまま白い肌に触れる。
暗闇に浮かび上がるようにぼぅっと光り、一点を中心に次第に暗闇に飲まれていく。
左胸、鎖骨、左肩、首筋、臍、右胸、脇腹。
まだらに消えていく体は、凹凸に従い、重力に従う。
ああ、この時でさえも、抗えない。
全てが消えてしまう前に、早く、早く。
体の芯は沸騰していて、ただひたすらに焦燥感に追い立てられる。
まだ染められていないそこに無理やり押し入ると、全てを拒絶するような冷たさが、全身を駆けた。
ああ、やはり今回も。
責め立てるような全身の熱は一気に冷えて、光っていたはずの体は、なくなっていた。
光る体を見たのはいつからだっただろうか。
人目を避けて夜に出歩くようになって、すぐ、と言うことも出来るし、だいぶ後だ、とも思う。
暗闇に浮かぶ柔らかな光に、吸い寄せられられるように近づいて、初めにあげたのは歓声だった。
悲鳴にも、唸り声にも聞こえる音が口から漏れて、身体中が震えだすのがわかった。体の中心で何かが燻って、それを発散しなくてはいけないような気がした。
だから、肌身離さず身につけていた万能ナイフを引き抜き、気付けば光を失った体に跨っていた。
燦々と輝く体に出会った。
いつもの、ぼんやりとした明るさではなく、目を細めなくては直視できないかのような光を放っていた。
ふらりと近づいた。近寄りたいとは思っていなかった。ただ、体だけがどんどん光に近づいていった。
ナイフを背に隠し、足音を立てずに背後に寄る。いつもの手順で手首を掴み、暗闇に連れ込んで光を遮ろうとするものを剥く。腹に跨って二の腕を両足で押さえつけながらナイフを振りかざし、そこに突き立てようとした時だった。
体が、何かを発した。
悲鳴のような上ずった音ではなく、しっかりと芯のある、どこかで聞いたような音。
また、何かを話す。落ち着いたトーンでしきりに呼びかける音が、体の芯を温めた。
おかしい。まだ、ナイフは新品同様に光っている。
やめろ、だめだ。
どこらからそんな言葉が落ちてきて、体は少し逡巡する。
それでもいつもの行程は忘れなかった。
スッと刃を当てて、つぷりと零れる赤を見ながら力を込める。
そこで、いつもと変わらぬ呻き声が散ると、燦々と放っていたはずの光は収束し、ただの体が眼下に転がっていた。
体に染みついているはずの、次の行動が取れず、最後の段階まで至ってもいないのに体が底冷えした。
歓喜に震えたかつてと全く別の感情で、体が揺れた。
ああ、やってしまった。
もう何に抵抗していたのかわからなかった。
もう何を追いかけていたのかわからなかった。
いつも最後に聞く獣の声が、自分の喉から発せられていることがひどく滑稽だった。
刃先が触れた。
白い肌に、赤い雫が溢れる。
腕に力を込めた。
獣のような呻き声が辺りに散って、また静寂が戻る。
抱きかかえると、力をなくした体はぐにゃりと動く。
柔らかな地面に横たえて、見下ろした。
はじめには少なかった赤はどんどん広がって、体の芯が温まるような心地になる。
自然と頬に力が入った。
口元が引き攣って、そのまま白い肌に触れる。
暗闇に浮かび上がるようにぼぅっと光り、一点を中心に次第に暗闇に飲まれていく。
左胸、鎖骨、左肩、首筋、臍、右胸、脇腹。
まだらに消えていく体は、凹凸に従い、重力に従う。
ああ、この時でさえも、抗えない。
全てが消えてしまう前に、早く、早く。
体の芯は沸騰していて、ただひたすらに焦燥感に追い立てられる。
まだ染められていないそこに無理やり押し入ると、全てを拒絶するような冷たさが、全身を駆けた。
ああ、やはり今回も。
責め立てるような全身の熱は一気に冷えて、光っていたはずの体は、なくなっていた。
光る体を見たのはいつからだっただろうか。
人目を避けて夜に出歩くようになって、すぐ、と言うことも出来るし、だいぶ後だ、とも思う。
暗闇に浮かぶ柔らかな光に、吸い寄せられられるように近づいて、初めにあげたのは歓声だった。
悲鳴にも、唸り声にも聞こえる音が口から漏れて、身体中が震えだすのがわかった。体の中心で何かが燻って、それを発散しなくてはいけないような気がした。
だから、肌身離さず身につけていた万能ナイフを引き抜き、気付けば光を失った体に跨っていた。
燦々と輝く体に出会った。
いつもの、ぼんやりとした明るさではなく、目を細めなくては直視できないかのような光を放っていた。
ふらりと近づいた。近寄りたいとは思っていなかった。ただ、体だけがどんどん光に近づいていった。
ナイフを背に隠し、足音を立てずに背後に寄る。いつもの手順で手首を掴み、暗闇に連れ込んで光を遮ろうとするものを剥く。腹に跨って二の腕を両足で押さえつけながらナイフを振りかざし、そこに突き立てようとした時だった。
体が、何かを発した。
悲鳴のような上ずった音ではなく、しっかりと芯のある、どこかで聞いたような音。
また、何かを話す。落ち着いたトーンでしきりに呼びかける音が、体の芯を温めた。
おかしい。まだ、ナイフは新品同様に光っている。
やめろ、だめだ。
どこらからそんな言葉が落ちてきて、体は少し逡巡する。
それでもいつもの行程は忘れなかった。
スッと刃を当てて、つぷりと零れる赤を見ながら力を込める。
そこで、いつもと変わらぬ呻き声が散ると、燦々と放っていたはずの光は収束し、ただの体が眼下に転がっていた。
体に染みついているはずの、次の行動が取れず、最後の段階まで至ってもいないのに体が底冷えした。
歓喜に震えたかつてと全く別の感情で、体が揺れた。
ああ、やってしまった。
もう何に抵抗していたのかわからなかった。
もう何を追いかけていたのかわからなかった。
いつも最後に聞く獣の声が、自分の喉から発せられていることがひどく滑稽だった。