Special coffee, with you.【番外編追加】
「美味しいですね」

そう言ってくれた後藤さんに「はい」と頷いて答えると、またパクパクと食べ始めた姿を私は眺めた。

男の人の食事って早いな・・・そんなことを思っているうちに、オムライスはどんどん減っていく。

あっという間に食べ終わった後藤さんを横に、私はいつものペースで口に運びながら雑談を挟んだ。

するとコーヒーを淹れていた安藤さんが、カウンター越しにコーヒーカップを差し出してきた。

「常連さんにサービスです、どうぞ」

目の前に置かれた2客のコーヒーカップ。

いつもブレンドに使われてるものだ。

「えっ、いいんですか?」

「はい、もちろんです」

驚く後藤さんに「どうぞ」と言って穏やかな笑みを見せた。

白いコーヒーカップを眺めながらこのカップ久しぶりだなって思う。

最初の頃私もこのカップでコーヒーを飲んでいたけど、安藤さんがあの青磁のコーヒーカップを用意してくれてから私のお気に入りになってずっと青磁のカップで飲んでいる。

まあ安藤さんが私の為に選んでくれたらしく、私にはあのカップで飲むのが通常になっていたんだけど。

どうしてまたこの白いカップに淹れたのかな?オムライスを出してくれた時に青磁のカップは下げていったのに。

ふと疑問に思っていた時、隣から感嘆の声が上がり意識がそっちへと向いた。

「このコーヒー美味しいです!」

「・・え」

後藤さんの方に目をやると、後藤さんは安藤さんに視線を向けている。

「これ、さっきのブレンドとは違いますよね?」

「そうですね、気付かれましたか?」

「はい。いつものブレンドもすごく美味しいけど、これは酸味が少なくて美味しいです」

「ありがとうございます」

微笑む安藤さんを見ながら、今の会話にふと思う。

酸味が少ない?もしかして・・・。

そう思いながらコーヒーカップを手にして一口飲むとすぐに分かった。

スペシャルブレンドだ・・・。

安藤さんと私だけが飲んでいるコーヒー。

後藤さんにも?どうして?

不思議に思いながら安藤さんを見ても、ただ微笑んで返してくるだけ。

「ね?佐野さん、すごく美味しいですよね」

「え・・ええ、本当に美味しいです」

その言葉を聞くと、後藤さんは安藤さんにまた視線を移して尋ねた。

「このコーヒーお店で出しているんですか?」

「いえ、これは出してないんです。今日は特別に用意できたので飲んで頂きました」

「そうなんだ~」

安藤さんの言葉に落胆しながらも、カップを手に取り機嫌よく飲んでいた。

うん、やっぱり美味しいよ。スペシャルブレンド。

私も安藤さんと後藤さんのやり取りを見ながらご馳走になった。

そして飲み終わった後藤さんは立ち上がり、「今日は楽しかったです。またご一緒させて下さい」と言葉を残してお店を後にした。
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