オフィス・ラブ #Friends
「名前で呼んでくれる?」
「彩ちゃん?」
弾む息の下、彩でいい、となんとか声にすると。
彩。
またあの濡れた声が、あたしの鼓膜を震わせた。
(思い出すなよ、こんなところで)
どさくさで、ついふたつめの「お願い」までしちゃって。
あれ以上図に乗らせて、どうすんの。
面白くない気分になりながら、手帳を確認する。
午後には、営業部とクライアントの会社に行って打ち合わせだ。
午前中のうちに、手持ちの企画をクライアント用にカスタマイズしておこうと、サーバからデータを取り出す。
身体が、すごく疲れてるような、妙に覚醒してるような、変な感覚で。
あの、独特の声の男に、心の中で毒づいた。
これから、あの人とどうしようかなあ、と考えているうちに、あっさりと3週間近くが経過した。
なんの音沙汰もない。
そもそもこの間、連絡先を交換しなかった。
だって、聞かれなかったから。
飛び石すぎて、何が大型連休だ、と言いたくなるようなGWも終わった。
今月は、あたしの誕生月。
割引を利用して、恵利と買い物でも行こうかなあ、と考える。
でも最近向こうは、ようやく恋人同士って感じになりだしたみたいだから、お邪魔かな。
とりあえず、連休のツケとも言うべき仕事を片づけちゃわないと。
各誌の原稿の進行を確認すると、ひとつだけ入稿されていないものがあった。
担当の営業部に連絡をして、広告主に問い合わせてくれるよう頼む。
実はまだ間に合うんだけど、もうぎりぎりだよ、とちょっと脅して電話を切った。