オフィス・ラブ #Friends
「ここって…」
待ち合わせた駅から、歩くこと5分ほど。
つれてこられたのは、おっさんのギャンブルの場、というイメージしかない場所だった。
なんで?
なんで初めてのデートで、競馬場?
別に嫌じゃないけど、不思議すぎる。
あたしの顔に浮かぶ疑問符を完全に無視して、堤さんは門の前で競馬新聞と赤ペンを買うと、はい、とあたしに持たせた。
「経験は?」
「ないです」
興味を持ったことすら、ないです。
周囲を歩く、真剣な眼差しで情報誌やら新聞やらをにらむおじさんたちから、なんとなく身を守る。
でも意外と、カップルや家族連れもいる。
堤さんは、よしよし、と満足そうにうなずくと、さっさと大きな建物に入った。
「今日は、一段と小さいね」
「歩くかもと思ったんで…」
かかとを上げて、低いヒールを見せる。
150センチないあたしは、この高さになってしまうと、堤さんの肩にやっと届くくらいだ。
あたしをベンチに待たせて、ふたりぶんのドリンクを買ってきてくれた彼は、ひとつを渡して、隣に座った。
デニムと、Tシャツと、綺麗めのパーカー。
若っ、と駅で会った時に思った。
この人、顔立ちが柔らかいせいか、スーツを脱ぐといきなり年齢が下がって見える。
そこにこの恰好なので、下手すると学生くらいに見えるかもしれない。
何気ないアイテムだけど、おしゃれに着こなすなあ、と感心した。
スタイルがいいんだな。
身長はあるし、骨格は華奢だけど、ちゃんと筋肉がついてて、危なげない。
いいね、こういう恰好も、似合う。
「メインは、第11レースのGⅠだ。それまでに、基本を覚えて練習するよ」
「馬券買うのに、練習がいるの?」
「やってみてから言いなさい」
新聞を開きながら、妙に真面目な顔でそう諭されて、いったい何が始まるのかと危ぶんだ。