オフィス・ラブ #Friends
きみは、僕に借りがあるよ。
背の高い、綺麗な顔のその人は、独特の柔らかい声でそう言って。
「たぶん」
自信満々に、つけ加えた。
この人が、例の。
恵利の上司だし、つきあいのある部署の人だから、顔と名前と、くせ者だって噂くらいは知ってたけど。
こうして話すのは初めてだった。
恵利とランチに出ようとしたところで、ばったり出会い、おごってくれるというから、即乗った。
どうせならと、恵利の制止を無視して、値段の表記がないような老舗の天ぷら屋さんを希望すると。
「いい趣味だね」
にこっと快諾してのれんをくぐり、テーブル席を指定した。
たぶん、ストラップのパンプスだった、あたしの足元を見たからだと思う。
綺麗な仕草で食べながら、でもたまにひじをついたりとそこそこ行儀悪く、堤さんは場を明るくするのがうまかった。
「どう、三ツ谷くんは」
「三ツ谷くんって?」
「うちで研修中の子。大塚さんを気に入ってるみたいなんだよね」
へえ、恵利め、モテ期だなあ。
けど、つつましい恵利は、その話をあまりしたくないらしくて、なんだかおとなしくなってしまった。
こういうわかりやすいとこが、可愛い。
でも堤さんは恵利の扱いに慣れていて、次々に情報を引き出しては、散々あたしを楽しませてくれた。