オフィス・ラブ #Friends
改札を通ってホームへ行く。

新宿方面へ行くらしいので、あたしの降りる駅までは一緒だ。



「おさがりって言ったじゃん」

「一時的な意味かと」

「彼氏がいるかもしれないのに、あんなことしたの?」

「関係ないでしょ」



本気で言ってんの?

あぜんとして、隣を見あげる。



「そんな女と思ってました?」

「まあ、その場合、何か理由があるんだろうとは思ってたよ」



でき心でそういうことをするような人間じゃないとは、思っててくれたってことか。

よかったんだか、なんなんだか。

それに、とすべりこんできた電車に、あたしを先に乗せてくれる。



「人のものも、嫌いじゃないしね」



さらりとそう言う彼を、改めてろくでもない男だと感じた。




混んでいる車内、埋もれがちなあたしを角に置いて、堤さんはかばうように前に立っていてくれた。



「今日、楽しかったです」



見あげながらそう伝えると、優しい微笑みがあたしを見おろす。

この人、別れたばっかりのくせにとかそういうの、思わないのかな。


あたしと一緒に一度ホームに降りた堤さんは、誕生日おめでとう、と一瞬あたしの頬に手をやって、そのまま髪を梳くように指を通すと。

振り向きざま、ひらひらと軽く手を振って、あっさりとまた乗って、行ってしまった。

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