オフィス・ラブ #Friends
「何食べたい?」
「うなぎ」
「土用の丑の日は、さ来月だよ」
苦笑しながらも、このあたりでは有名な、関東風のうなぎ屋さんに向かってくれる。
恵利のいない今日、堤さんから携帯にメールが来て、ランチをどう、と誘われた。
店の外にもいい香りをただよわせる、古めかしい木の引き戸を開けて、ちょうど空いていた席につくと。
あたしたちは品書きを見もせずに、特上をふたつ注文して、出てきた重に舌鼓を打った。
「堤さんて、ほんと忙しいですね」
「でも来月から、ひとり来ることになったんだよ。だから少しは空くかな」
「ほんと」
自然と明るい声が出た。
この間競馬に行ってから、何度か連絡をくれてはいたけれど、すれ違いばかりで、会うことができずにいたのだ。
「嬉しい?」
微笑む綺麗な顔にそう訊かれて、あたしは正直に、うん、と答えた。
堤さんは楽しそうに、声を上げて笑って。
この人のそういう顔は、意地の悪さなんかかけらもなくて、素直で、可愛いくらい。
「6部って、女性誌に手を出さないの」
「今のところね、ちょっとメインの層と遠いから」
相変わらず優雅な所作でお箸を進めながら、軽くうなずく。
そうなんだよなあ。
別にあたしの担当してるとこじゃなくていいから、もっと広げてくれたらいいのに。
「実購買層のオピニオンリーダーを取りこむなんて、どこでもやってるじゃん。純広告じゃなくても、コラムとかって手もあるし」
「この間、大塚さんがまったく同じ提案を僕にもちかけてきたよ」
ありゃ、そうなの。
考えることは一緒か。