オフィス・ラブ #Friends
堤さんが、お茶を飲みながら、にこりと笑った。



「広告主への提案は許可した。あとは、彼女次第だね」

「まあ、実現したとしても、あたしの担当誌じゃないだろうなあ」

「残念ながらね。年齢層が違いすぎる」



恵利と仕事できたら、面白いのにな。

そう思いながら、食べ終えたお箸を、先を折った箸袋に戻していると、ほぼ同時に食べ終えて、椅子の背にもたれて優雅に脚を組んでいる堤さんと目が合った。

口元は微笑んでるけど、その目は笑ってない。



「今日、何時になるかわからないけど」



この声。

どくん、と身体が脈打つ。



「いつもよりは、早く帰れるんだ」



まっすぐあたしを見て、そう言う。


なんで今ここで、その声使うの。

いつスイッチが入ったの。



「行っていい?」





脚が、無意識にシーツを蹴る。


声が我慢できない。

なにこれ、この間と全然違う。



満足げな声が、面白そうに、ちょっとバカにしてるみたいに、耳に吹きこまれる。



「どうしたの」



わざわざ訊くな。

ていうかその声、やめてよ、自分で気づいてないの?

心臓に悪いくらい艶っぽくて、水気があって、入ってきた耳から、しびれそうになる。

< 29 / 66 >

この作品をシェア

pagetop