オフィス・ラブ #Friends

「どんな借りでしょう」



ランチからの帰り、彼は、恵利と一緒にフロアには戻らず、雑誌局に用があると言って、あたしと同じ階でエレベーターを降りた。



「大森さんの件」

「ああ」



どうして恵利と新庄さんが、彼の携帯番号を知ってたのか、不思議だったんだ。

そういやこの人、元企画3部だもんね。



「どうしたら返せます?」

「ものわかりがいいね」



フロアに入るドアは、昼食時ということもあって、人の出入りが多い。

出てきた人の邪魔になっていたらしいあたしを、ちょいちょいと指で招いて廊下の端によけさせる。

腕を組んで、壁にもたれた堤さんは、頭ひとつ小さいあたしを、遠慮なく見おろして。



「今度、一緒に飲んでくれる?」



意外と健全な返済方法を、提示してくれた。




年度が変わる前、あたしは大好きだった人に別れを告げた。

もう、待っててもらうのが申し訳なくて、耐えられなかったから。


じゃあ、飛びこんじゃえばいいじゃんって思うけど。

それができないから、待たせてたんだよ。


きっとあたしは、どれだけ長く待ってもらっても、結局決心できない気がした。


あたしから、垣根を越えてった恋だったんだけど。

好きで、好きで、いまだに好きなんだけど。

不満なところなんて、何ひとつなかったんだけど。


きっと、この人は「違う」んだ。

そう考えなきゃいけなかったのが、たまらなく悲しかった。

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