オフィス・ラブ #Friends

「…出し惜しんでないせいでしょ」



見おろす顔をにらんでやろうと目を開けたら、涙がにじんでたことに気がついた。

声も、かすれてうるんで、ぼろぼろだ。

くそお。



「生意気、言わないの」



また、声を上げさせられる。

耐えられなくて、ぎゅっと身体にしがみつくと、首筋にキスをくれた。



「この前より、いいんだ」



もう強がる理由もないので、強く抱きついたまま、うん、とうなずくと。

それはね、と、笑みを含んだ声が、耳元でささやいた。



「彩が、だんだん俺を好きになってるからだよ」

「ええ…?」

「ほんとだよ。まだ、たいしたことしてないもん。このくらいなら、前もやった」



そうだっけ。

そういうのって、されてるほうは、よくわかんないんだよね。


じゃあやっぱり、あたしの問題なわけ?

絶対、それだけじゃないと思うよ。



ね、やっと彩って呼んでくれたね。

なんだかんだ、デートでもランチでも、そもそもあたしを呼んでくれなかった。

この人なりに、この関係を、中途半端だと感じてるのか。


震える指を、少し汗ばんでる、さわり心地のいい前髪に通して、こめかみにキスをする。

くすぐったそうに片目をしかめてそれを受けた堤さんは、お返しにあたしにも同じことをしてくれた。



「キスしたく、ならないの」

「なるに決まってるだろ」



どれだけ我慢してると思ってるの。


愛しそうに、あたしにさわりながら、堂々とそう言うのに、笑う。



「じゃあ、したらいいじゃん…」

「してって言ったら、してあげる」



ふふんと感じ悪く微笑む顔を見て、誰が言うかって思いが固まる。

お互い、したくないことは絶対しない末っ子同士だから。

たぶんとことんまで、この件では、やりあうことになるんじゃないだろうか。

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